その日は天気予報の通り、雨だった。
「そんな小さな折りたたみで傘いいと?」
「山の中は寒かろう。あったかいコートいらんと?」
そう母と父は心配してくれたが、なぜか私は、雨は止むだろうし、太陽が出て暖かくなるだろうと信じていた。
根拠はない。だけど。
私の乗った別府行きの高速バスが別府へ近づいても、まだ雨は車体にぶつかってくる。それでもこの雨は止むと信じていた。
別府に到着すると雨は小降りになった。そして城島へ着くとすっかり雨は止み......青空が出てきた。
――到着したのかな
なぜかそう思った。根拠はない。
「そんな小さな折りたたみで傘いいと?」
「山の中は寒かろう。あったかいコートいらんと?」
そう母と父は心配してくれたが、なぜか私は、雨は止むだろうし、太陽が出て暖かくなるだろうと信じていた。
根拠はない。だけど。
私の乗った別府行きの高速バスが別府へ近づいても、まだ雨は車体にぶつかってくる。それでもこの雨は止むと信じていた。
別府に到着すると雨は小降りになった。そして城島へ着くとすっかり雨は止み......青空が出てきた。
――到着したのかな
なぜかそう思った。根拠はない。
13時少し前、荒川さんがリンクサイドに姿を現した。すぐに控え室となっている小屋に入る。その間、リンク上では係の人たちが懸命に整備をしていた。
実はこのとき、再び雨が少しパラパラと落ち始めていた。
―― お願いですから、ほんのちょっと、我慢してて下さい......
私は空を睨んだ。雲が風で移動している。早く雨雲が移動するよう願った。
13時を少し過ぎて。エメラルドグリーンの衣装に身を包んだ荒川さんが控え室から出てきて、リンクに乗った。(▼参考動画)
雨が止んだ。
荒川さんはリンクを何周かまわり、氷の状態を確かめている。
まだ演技が始まっていないというのに、私はもうすっかり荒川さんに見とれていた。毎年思うのだが、本当に屋外の、空の下でも、眩しく美しい。
この城島高原パークは山の中にあり、木々に囲まれた緑豊かな遊園地なので、今回のエメラルドグリーンの衣装もよく似合う。まるで高原に吹く風のようだった。
荒川さんは状態を確かめ終わると、スッと一箇所に止まった。スタートの場所が決まったのだ。最初のポーズをとる。
しばし止まる時間。ゆるやかな風が吹く。
流れ始める『Nella Fantasia』。その瞬間から、別の世界の時間が流れ出す。
遊園地のスケートリンクであることを忘れてしまうような、雰囲気を変える空気の流れが彼女から生み出される。
リンク上には反射でちょうど逆さになった彼女が綺麗に写り込んでいた。屋外リンクならではの光景だった。
光と、木々の緑と、風と、氷と......全てを取り込んで一つにし、彼女自身の世界へと紡ぎあげ、奏でるように滑っていた。
――ここはどこだろう?
あまりの美しい光景に、私の頭のなかでは幻想と現実との境界があいまいになり過ぎて、クラクラしていた。
彼女はこの高原にも愛されているのかもしれない。......いや、彼女は高原の女神にもなれるのだ。
......ふっと幻想から現実へ戻ったきっかけは、演技を終えた彼女のもとへ、長靴をはいたMCのお兄さんが、ひょこひょこと近づいて行ったときだった。
ああ、私はイベントに来ていたんだった(笑)。
デモンストレーション後のスケート教室も終わり、トークショー会場へと移動する荒川さんへ声をかけると、荒川さんは
「ありがとうございます」
と思いっ切り満面の笑顔で応えてくれた。......しばらくあの笑顔は、忘れられそうにない。
トークショーの内容はどれも深い話だった。そのなかでも特に心に残ったのは震災についての話だった。
一字一句、完ぺきに覚えているわけではないが、荒川さんは上記のような内容を、会場にいる人たちにきちんと伝わるよう、ていねいに、一生懸命、話していた。
それを聞いたとき、ついさっき、私に対して向けてくれた笑顔......あの満面の笑顔の意味が分かった気がした。
......そうだ、あの笑顔を誰かにつないでいけばいいんだ。
イベントが終わり、ゲートへ向かう階段を上る途中で、空を見上げた。
―― 私も青空を呼び込めるようなひとになりたい

※フォト蔵にも画像を置いてます posted by (C)joy-m
<昨年の記事>
▽女神はふたたび舞い降りた・・・城島高原に
実はこのとき、再び雨が少しパラパラと落ち始めていた。
―― お願いですから、ほんのちょっと、我慢してて下さい......
私は空を睨んだ。雲が風で移動している。早く雨雲が移動するよう願った。
13時を少し過ぎて。エメラルドグリーンの衣装に身を包んだ荒川さんが控え室から出てきて、リンクに乗った。(▼参考動画)
雨が止んだ。
荒川さんはリンクを何周かまわり、氷の状態を確かめている。
まだ演技が始まっていないというのに、私はもうすっかり荒川さんに見とれていた。毎年思うのだが、本当に屋外の、空の下でも、眩しく美しい。
| セントレジャー城島高原パーク ガイドブック |
荒川さんは状態を確かめ終わると、スッと一箇所に止まった。スタートの場所が決まったのだ。最初のポーズをとる。
しばし止まる時間。ゆるやかな風が吹く。
流れ始める『Nella Fantasia』。その瞬間から、別の世界の時間が流れ出す。
遊園地のスケートリンクであることを忘れてしまうような、雰囲気を変える空気の流れが彼女から生み出される。
リンク上には反射でちょうど逆さになった彼女が綺麗に写り込んでいた。屋外リンクならではの光景だった。
光と、木々の緑と、風と、氷と......全てを取り込んで一つにし、彼女自身の世界へと紡ぎあげ、奏でるように滑っていた。
――ここはどこだろう?
あまりの美しい光景に、私の頭のなかでは幻想と現実との境界があいまいになり過ぎて、クラクラしていた。
彼女はこの高原にも愛されているのかもしれない。......いや、彼女は高原の女神にもなれるのだ。
......ふっと幻想から現実へ戻ったきっかけは、演技を終えた彼女のもとへ、長靴をはいたMCのお兄さんが、ひょこひょこと近づいて行ったときだった。
ああ、私はイベントに来ていたんだった(笑)。
デモンストレーション後のスケート教室も終わり、トークショー会場へと移動する荒川さんへ声をかけると、荒川さんは
「ありがとうございます」
と思いっ切り満面の笑顔で応えてくれた。......しばらくあの笑顔は、忘れられそうにない。
「人を元気にする事で、それが少しづつ復興への力になってゆくのだとしたら、まずは人々を元気に出来ることを考える」
「離れていても出来ることはたくさんある」
「被災地から離れていて、笑うことに罪悪感を感じる時期もあった。でもそうではなく、身近なところから人々の笑顔を一つでも多く作ってゆくことで、それが伝わってゆき、伝わった先のどこかで、ひとりでも多くの人が元気を取り戻してくれる......そんなことが出来ればいいと思った」
「思いついたら行動する。自分自身ができることを積み重ねる。やらないよりはやったほうがいい」
それを聞いたとき、ついさっき、私に対して向けてくれた笑顔......あの満面の笑顔の意味が分かった気がした。
......そうだ、あの笑顔を誰かにつないでいけばいいんだ。
イベントが終わり、ゲートへ向かう階段を上る途中で、空を見上げた。
―― 私も青空を呼び込めるようなひとになりたい

▽女神はふたたび舞い降りた・・・城島高原に

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